ウィンターワークショップ2006・イン・鴨川 討論報告:ソフトウェアパターン

鷲崎 弘宜(国立情報学研究所)

情報処理学会ソフトウェア工学研究会パターンワーキンググループ

 

 

1.        目的と経緯

本セッションでは,ソフトウェア開発において繰り返し発生する問題と解決策・フォース等をまとめたソフトウェアパターンの特性、および、パターンの運用・周辺技術の特性について議論した.参加者は,鷲崎弘宜(国立情報学研究所)を討論リーダとして,下滝亜里(大阪産業大学大学院),羽生田栄一(豆蔵), 河合昭男(オブジェクトデザイン研究所), 久保淳人(早稲田大学大学院),中山弘之(早稲田大学大学院)の6名であった.また、一部の議論について1名のオブザーバが参加した。

ソフトウェア工学研究会パターンワーキンググループは、これまでウィンターワークショップに毎年パターンセッションを設置し、継続的にパターンおよびパターン技術の本質を明らかにしてきた。経緯を以下に示す。

l          石垣島2004: ソフトウェア要求獲得を実験し、建築でのパターンランゲージがもたらす要求獲得支援効果が,ソフトウェア開発についても得られることを明らかにした[1]これは、パターン活動プロセス[2]を構成する利用活動の評価・適用工程について得られた知見である(図1参照)。

l          伊豆2005: 参加者の経験からパターンを発掘した結果、パターンの必要条件として対立するフォースの組が不可欠なことや、マイニング手法によってパターンランゲージへの発展を支援できる可能性を明らかにした[3]。これらは、パターン活動プロセスを構成する抽出活動の発見・記述工程について得られた知見である。


 

1: パターン活動プロセスとワークショップテーマ

 

以上の成果により抽出・利用活動の前半部について主要な特性が明らかになったものの、後半部について依然として不明であった。そこで本セッションでは,ライターズワークショップの実施により抽出活動の洗練・評価工程の特性を明らかとすることを試みた。また、ポジションペーパ発表を起点とした議論を通じて、効果的なパターン技術や周辺技術のあり方を明らかとすることを試みた.

 

2.        議論成果

(1)   ライターズワークショップ

ライターズワークショップとは,新規に提案されたパターンを複数名で推敲・洗練する活動[4]であり、その形式は集団による詩作活動に類似する。本セッションでは2つのパターンランゲージを取り上げて以下の成果を得た。

l          「業務システム開発における要求獲得パターンランゲージ」(提案: 鷲崎ら)は、顧客から要求を円滑に獲得する活動を支援するパターン集合からなる。ライターズワークショップにより、抜けている新規パターンの追加、および、不適切なパターンの削除を行い、より有効性を高めた(図2参照)。

l          「モノ・コト分析パターン言語」(河合)は、適切なドメインモデルを効率よく作成するためのパターン集合からなる。ワークショップにより、より適切なパターン名への修正などを行い、有効性を高めた。

l          パターンランゲージが備えるべき特性として、扱う範囲設定が妥当なこと、および、パターン間の関連が明示されていることを明らかにした。

 


2: ライターズワークショップ成果(各楕円はパターン)

 

(2)   パターン関連技術の特性

ポジションペーパを基に,パターン活動支援技術や周辺技術の特性を議論して以下のように明らかにした。

l          「非対称関連によるソフトウェアパターンの粒度測定法」(発表: 久保ら): パターン間の非対象関連から各パターンの粒度を測定する手法が提案された。今後の展望・コミュニティへの要請として、パターンの粒度の意味や性質の明確にする必要があることを明らかにした。

l          「検索のためのソフトウェアパターン重要度とその正規化」(中山ら): パターン間の関連に基づいて各パターンの重要度を正規化して算出し、検索に活用する手法が提案された。展望・要請として、パターンの(検索などを活用した)学習過程を明確にする必要があることを明らかにした。

l          「ベンチマークとしてのデザインパターンの使用に向けて」(下滝): 設計手法や実装言語の比較評価のためのベンチマークとしてデザインパターンを捉える考え方が提案された。展望・要請として、各パターンにおける実践的サンプルの明示が必要なことを明らかにした。

l          「ビジネスアーキテクチャの(4+1)×1ビュー」(羽生田): 情報システムが扱う業務や組織のアーキテクチャを多次元で捉える枠組みが提案された。展望・要請として、多様なパターンの、工程以外の軸による分類の必要性を明らかにした。

 

3.        現状と将来の展望

成果の全ては[5]において公開している.以上の議論を通じて,パターンについての現状として、デザインパターンは十分に普及しているものの、上流工程における経験のパターン化は未成熟であることを再確認した。

続いて、課題を以下のように明らかとした。

·            工学への道筋: パターンのリファレンス実装が必要

·            パターン化の促進: 豊富な適用経験を分析する枠組みとパターン化を奨励する取り組みが必要

·            領域の拡充: 組込み等のパターン発掘不十分な領域について開発上制約の名付けと整理が必要

今後は,これらの課題について,パターンWG内外における議論と実践を通じて取り組み,開発・組織活動におけるパターンの活用と支援技術の発展を目指す.

参考文献

[1]       松下誠 他: ウィンターワークショップ・イン・石垣島参加報告, 情処研報, 2004-SE-145, 2004.

[2]       鷲崎弘宜 : ソフトウェアパターン研究の発展経緯と最近の動向, 情処研報, 2004-SE-147, 2005.

[3]       柴合治 : ウィンターワークショップ2005・イン・伊豆参加報告,情処研報, 2005-SE-148, 2005.

[4]       羽生田栄一 監修, パターンワーキンググループ著: ソフトウェアパターン入門, ソフトリサーチセンター,2005.

[5]       http://patterns-wg.fuka.info.waseda.ac.jp/