業務ソフトウェアシステム開発における要求獲得ミニパターンランゲージ (仮)

作成者: 久保 淳人、鷲崎 弘宜 (2005.12.14)

■概要

業務手順に基づく業務遂行を支援するソフトウェアシステムの開発において、要求獲得の有効なノウハウを抽出し、以下の5つのパターンからなるミニパターンランゲージとしてまとめた。これらは、システム開発に従事する熟練技術者1 名に面接を行い,ソフトウェア要求獲得に関するパターンを得る実験を行った結果得られた.面接時間は約2 時間で,ソフトウェア要求獲得の基礎的な説明を受けるのに30〜45 分をかけ,残りの時間で観察事項の記述を行った.

パターンとして記述される知識が,実証されたものであることを保証するため,面接前にRule of Three についての説明を行った.Rule Of Three とは,パターンとして成立するためには少なくとも3 つの異なる事例が必要である,という経験則である.本研究におけるケーススタディ記述の省略により,3 つの事例が存在することを確認することはできないが,Rule of Three の事前説明により,ある程度の信頼性は得られたものと考えられる.

得られた5つのパターンを以下に示す。また、それらの関係を以下の図に示す。

■パターン一覧

雛形手順書

文脈

業務手順の標準提案書が存在しない。それぞれの顧客について、基礎から業務手順を構築している。

問題

標準となる業務手順を作成すること。

理由

個々の違いに一から対応するのは非現実的である。しかし、どの業務でも基本的な流れ(書類の起案→承認→配布や実行)は共通する。また、用語を置き換えただけの作成は容易。たたき台があると会話しやすい。

解法

最初に、業務・業種に関わらない基本的な業務手順を作成する。次に、基本的業務手順を実行できるたたき台を、対象業務に即した形で作成する。そのプロトタイプを元に協議しながら肉付けしていくことで、各顧客に最適な業務手順を導出する。

結果

コストを抑えつつ、ユーザ固有のフローが得られる。

関連パターン

「業務規則と業務実態」で最初に提案する理想の業務手順の作成に、このパターンを利用することができる。「知人の説得」で、共通の基本業務手順の存在を示すことで訴求力の強化が可能である。

業務規則と業務実態

文脈

ヒアリングの初期。ヒアリング全体の進行方法を検討している。新規参入なので、提案に説得力がない。

問題

実際の業務手順に合致したシステムを構築したい。

理由

大抵の顧客は業務規則を持っている。しかし、調査した業務手順はしばしば業務規則を遵守していない。業務規則だけに沿ったシステムを構築しても、実際には活用されない。

解法

業務手順の提案を2段階に分ける。1回目では、古い規則どおりの業務手順を提示し、ユーザに誤りを指摘してもらう。2回目では、現実に即した業務手順を提案する。

結果

現実に即した業務手順が得られる。また、顧客自身が業務について考察する機会となるため、より適した業務手順が得られる可能性がある。

関連パターン

「雛形手順書」で作成した共通業務手順を1回目の提案に用いることができる。実際にヒアリングを行う場合、「雛形手順書」を用いるとよい。人間は批判されるのを嫌うため、「雛形手順書」を用いることで、顧客の心証を悪化させずに要求仕様を獲得できる。逆に、「知人の説得」を用いて、提案する業務手順に顧客の業務を合わせてもらうこともある。

他人の誤り

文脈

ヒアリング中。

問題

顧客の感情に配慮したヒアリング。

理由

最初から現実的な業務手順を提示すると、人間は誤りを認めたくないので拒絶される。しかし、他人の誤りは指摘しやすい。

解法

最初にたたき台となる業務手順を提案し、その誤りを指摘してもらうことで、顧客が求める業務手順へ近づける。顧客は「他人」である提案者が提案する業務手順に喜んで問題を見つけて教えてくれる。

結果

現実に即した業務手順が得られる。細かい足回りが見えてくる。最適な業務手順に繋がる可能性。顧客は、「他人」が提案する業務手順に喜んで問題を見つけて教えてくれる。

関連パターン

「業務規則と業務実態」は、このパターンに先行して適用できる。業務規則と業務の実態は異なることがあるため、2回に分けてヒアリングすることで、より現実に即した業務フローが得られるが、顧客は誤りを指摘されるのを嫌う。本パターンを用いることで、顧客の誤りを指摘することなしにヒアリングを行うことができる。

知人の説得

文脈

既に導入実績のある顧客への提案を行おうとしている。提案者が提案した業務手順の有効性を顧客側担当者は認めているが、内部の説得に苦慮している。

問題

顧客への提案を円滑に受け入れてもらいたい。

理由

一般的に、信頼できる相手の指摘であれば素直に自身の誤りを認めることができる。しかし、顧客側担当者の立場が弱い場合、担当者が単独で顧客側を説得するのは難しい。

解法

最初から理想的な業務手順を提案する。

結果

顧客の担当者は、提案者の実績を楯にして顧客側の内部を説得することができる。理想的な業務手順が得られる。

関連パターン

「業務規則と業務実態」のアプローチとは逆に、現実を規則に合わせる場合に、このパターンを用いることができる。「雛形手順書」を用いることで訴求力を強化できる。

ソフトウェア要求の獲得

文脈

ソフトウェア要求が得られていない。

問題

ソフトウェアに対する顧客の要望を正しく獲得したい。

理由

ソフトウェア要求を正しく獲得する必要がある、しかし、顧客は自身の要望をうまく表現できないかもしれないし、顧客の業務の実態は規則と異なっているかもしれない。さらに、新規参入であれば、顧客との力関係上、顧客の業務を大幅に変更するような提案は難しい。

解法

基本方針を決定する。例えば、基本となる業務フローを作成して肉付けを行うのか、個別にフローを作成するのか。または、現状の業務手順を理想に合わせるのか、現状の業務手順に合わせてシステムを開発するのか、といった点について検討する。

結果

ソフトウェア要求を正しく獲得できる。

関連パターン

その業種について参入経験があれば、「雛形手順書」を用いて提案作成の手間を削減することができる。参入経験がない場合は「雛形手順書」を用いることができないので、「業務規則と業務実態」を用いて現状に即した業務手順を得る。

■履歴

2005-12-13
初版作成。